企業における知財戦略(第4回)知財戦略の組み立て
最終回となる今回は、経営者および知財担当者と外部の専門家による知財戦略の組み立てについて解説します。
知財戦略の前提となる戦術レベルの動き
第1回~第3回を通して、企業内の担当者には厳密に法律を使うことよりも重要な役割があり、「設計者らにサーチした特許文献等を提示し、知財意識を高め、見過ごしている発明を抽出すること」や、「他社製品との比較、顧客のニーズ、事業の方向性等を総合的に考慮した上で、自社技術の特徴を見極めること」などが重要であることをご説明しました。
その上で、厳密な侵害成否や特許性の判断は、弁理士等の外部の専門家に依頼すればよいですし、想定されるライバル会社の侵害態様についても外部の専門家に情報を提供し、協働して実効性のある権利を創っていくとよいでしょう。秘匿化(ノウハウ)の判断についても同様です。例えば、「生ゴミとおがくずとを混ぜて有機肥料を製造するような装置」があった場合、弁理士に相談すれば、「刃の形状は真似され易いので特許出願し、混合比や、刃の形状と関連しての回転制御方法は特徴があっても、相当に試行錯誤を要するノウハウに属するので秘匿化しましょう」などとアドバイスしてくれることでしょう。
知財戦略とは、このような動きの積み重ねにより「どのようなパテントポートフォリオ(特許で保護された独自の技術群)を構築するのか」(第1~第3ステージ)、および「構築されたパテントポートフォリオをどう活用するか」(第4ステージ)について意思決定することに他なりません。
知財戦略(第1~第3ステージ)
出てきた技術を「単純に、その都度出願する」のではなく、他社の技術と比べてどこに差異があるのか等を、市場調査、出願状況の調査により見極め(パテントマップ解析等)、どのカテゴリに強みがあるか(あるいは強みを出すのか)を把握しつつ、選択的・戦略的に出願していくのがポイントです。
たとえば、出願の多いカテゴリはライバルも多く価格競争に巻き込まれ易いので、出願が少ないカテゴリ(潜在的なニーズがある部分)を見極めた上で、自社の技術で解決し得る課題を発見し、独自部分となりうる部分を見出します。そして、この独自部分をコアにして、事業の方向性を考慮しつつ、改良技術を次々に権利化(あるいはノウハウ化)し、パテントポートフォリオを構築していくのです。
知財戦略(第4ステージ)
1.参入障壁として
第一に、「参入障壁」としての活用が考えられます。これは目には見えませんが、確実に期待できる効果の一つです。特許を積極的に出願していた企業が経費削減のため出願を控えたところ、他社が一気に参入してきて売上が大幅に減ったというような事例が少なくないのです。
2.価格競争に巻き込まれることを防ぐ手段として
第二に、「価格競争に巻き込まれることを防ぐ手段」として使えます。これは第一の活用方法とも密接に関連するのですが、特定の技術を独占的に実施できることを生かしたものです。
3.契約交渉のカードとして
第三に、「契約交渉のカード」として活用することも考えられます。特に請負比率が高い企業にとって有効な活用方法です。(部品などを大手に供給するような場面で、価格交渉等において)契約を有利に進めることができます。さらに、請負企業から、いわゆる「部品メーカー」への脱皮を図る途も開けてくるでしょう。
4.資金繰りを改善する手段として
第四に、「資金繰りを改善する手段」としての活用も考えられます。最近では、ベンチャーキャピタルや各金融機関で知財担保融資が盛んになってきましたし、知財信託による投資マネーを活用した資金獲得も徐々に増えてきましたので、今後活用が期待できる分野です。少なくとも、知財戦略を「経営計画書」の中に記載することができれば、金融機関の見る目も変わってくることでしょう。
5.ライセンス料取得もしくは権利行使
第五に、「ライセンス料取得、権利行使」が考えられます。もちろん、クロスライセンスで他社特許への使用料支払を軽減することも可能でしょう。
以上、簡単ですが、企業の知財戦略について説明してきました。必ずしも専門書に載っているような大企業向けの知財戦略を目指す必要はありません。できることから始めてみてはいかがでしょう。