ビジネスを有利に進めるための国際出願の活用の仕方

概要

当事務所では、現在、米国、中国、香港、台湾、ベトナムなどへの国際特許出願(PCTまたは直接出願)のほか、米国、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、中国などを指定するマドプロ国際商標登録出願などの国際出願を複数取り扱っています。

国際出願の知財戦略はどう組み立てる?

多くの場合、その外国で協力者を得てビジネスを進める予定があったうえで、国際出願を行います。

他方で、ビジネスを進める中で、出願を予定していなかった国の事業者から「ぜひ一緒にビジネスを行いたい」という申し出を受けることも多い状況です。

ここで、もし、最初に予定していた国だけに直接、外国特許出願を行っていたという場合で、かつ、日本国内のビジネスを保護するために国内出願(以下「基礎出願」といいます)から一定の期間が経過していた場合には、もう、他の国では特許を取得できないという事態になってしまうことがあります。

このような場合に備えて、どのような手を打っておけばよいのか、国際出願の利用方法についてご説明したいと思います。

第1のターニングポイント

まず、日本国内で基礎出願を行うことになりますが、国内出願の出願日から1年間(特許)、6か月(商標)というパリ条約優先権主張の優先期間に留意することが第1のターニングポイントになります。

国内基礎出願日と国際出願の関係

優先期間内に国際出願を行うと、諸外国において、日本の基礎出願の出願日に出願した場合と同様に取り扱いになり、先行技術調査などで有利に取り扱ってもらえる利益を得ることができます。

このため、まずは優先期間内に出願できるように、どの国でビジネスを進めるかという計画段階の意思決定が重要になります。

第2のターニングポイント

次に、特許の場合、国際出願の出願日から1年を超えていた場合には、国内出願の公開公報の発行(出願から1年6か月)または、早期に審査が進んで特許を取得し、(出願公開よりも先に)特許公報が発行されているかどうかが第2のターニングポイントになります。

基礎出願日からの優先期間をを過ぎた場合

これは、自己の基礎出願が公開されてしまうことで、公知になってしまい、諸外国での審査において、自己の基礎出願が公知技術として取り扱われることで、新規性や進歩性を失って権利化できないことに関するものです。

この場合も、自己の基礎出願が公知になる前に、どの国でビジネスを進めるかという計画段階の意思決定が重要になります。

ただし、優先権主張と異なり、出願日が国内の基礎出願の日まで遡るわけではありません。その国で第三者が先に特許出願していたり、第三者の出願が公開されて公知になっていたりした場合には拒絶されてしまい、国際出願の計画は水泡に帰すので、あくまで、優先期間内に国際出願できなかった時の次善の策でしかないことに留意が必要です。

やはり基本は、優先期間内に国際出願することと、念頭に置いておいてください。

国際出願の活用の仕方

(1)商標の場合:マドプロ国際商標登録出願の活用方法

まず、商標については、マドリッドプロトコルという条約に基づく国際商標登録出願(「マドプロ国際商標登録出願」といいます)を利用することが考えられます。

諸外国に出願する場合は、現地の代理人を介して、現地の特許庁に書類を提出する必要がありますが、マドプロ国際商標登録出願の場合は、日本の代理人(当事務所)と日本特許庁や国際事務局の間だけで登録まで可能となり、現地代理人や、現地特許庁の費用も必要ありません。

マドプロ国際商標登録出願を行うことで、マドリッド協定議定書締約国(2021年2月末時点で107か国)において商標登録を受けることができることはもちろん、下記のような様々なメリットがあります。

マドプロ国際商標登録出願のメリット

(イ)最初の国際出願時に、1か国でも指定しておけば、その国で商標権を取得して権利行使することができます。

(ロ)さらに、国際登録を取得することができるので、マドプロ加盟国において先行登録例として取り扱われる利益を取得し、諸外国において、第三者による同一又は類似の商標登録を阻止することができます。

(ハ)加えて、事後指定によって登録を取得したい国を指定することで、事後的に各国に商標権を拡充していくことができます。

特に、(ロ)の点は見過ごされがちなのですが、国際ビジネスにおいては、どの国から声が掛かるかは不透明なので、戦略的に見ても非常に重要な視点と思います。

手続きの比較

①各国ごとに、現地代理人を選任して、各国特許庁に現地の言語で商標登録出願する場合
各国ごとに、現地代理人を選任して、各国特許庁に現地の言語で商標登録出願する場合の流れ図
②マドプロ国際商標登録出願の場合
マドプロ国際商標登録出願の場合の流れ図

(2)特許の場合:PCT国際出願の活用方法

特許の場合は、翻訳費用なども含めて出願費用もそれなりに掛かるので、どの国に国際出願をするかは慎重に検討することが必要です。

他方で、前述のように、後になって、外国の事業者から声が掛かったときに、その国で特許を取得できない状態になっていると、その国でビジネスを進めるのは不利になります。

そこで、PCT国際出願を行っておくことをお勧めします。
PCT加盟国(2021年2月末時点で153か国)の全てに対して、国際出願したのと同じ効果が得られるからです(いわゆる国際出願の束)。

そして、優先日(基礎出願の出願日)から、30か月(国によってはさらに延長あり)以内に、特許を取得したい国に対して、翻訳文の提出やその国への移行手続きを行えばよいので、前述の優先期間(特許だと1年間)を超えて、判断を保留することができるというメリットがあります。

このため、ある国では協力者を得てビジネスを進めたが、後になってそれを聞きつけた第三国の事業者からビジネスを持ち掛けられたときにも、その国で特許を取得できる可能性を高めることができるわけです。

PCT国際出願の手続き

まとめ

以上のように、国際出願を利用することで、ビジネスの展開の可能性を飛躍的に高めることができまず。

ぜひ活用を検討してみてください。

国際出願のスケジュール

補助金について

マドプロ国際商標登録出願及び、PCT国際出願後の各国の移行手続き(翻訳文作成、国内代理人費用、現地代理人費用、現地特許庁費用)については、補助金申請の制度がありますので、こちらも併せてご検討ください。

  • <道経産局 中小企業外国出願支援事業(補助金)>

https://www.hkd.meti.go.jp/hokip/chizai/globalreach/support/business.htm

  • <東京都知的財産総合センター 外国特許出願費用助成事業>

https://www.tokyo-kosha.or.jp/chizai/josei/tokkyo/index.html

当事務所の補助金手続きのお取扱い実績について

当事務所でも、2019年度にPCT国際出願の米国や中国などへの移行手続き(道内のお客様)、2020年度にマドプロ国際商標登録出願(道内のお客様)と2019年度にPCT国際出願のベトナムなどへの移行手続き(道外のお客様)などで補助金支給決定を取得した例がございます。


特許・商標の国際出願に掛かる費用と時間は、ケースバイケースです。ご検討の際は,ぜひお気軽にお問い合わせください
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