企業における知財戦略(第2回) 知財担当者のスキル要件と役割
前回は、知財戦略推進の前提として、知財担当者の育成の必要性についてご説明しました。育成に際しましては、スキル要件(目標レベル)の設定、担当者のアサインなど課題も多いのですが、勘所をおさえることで効率的に進めることができます。今回は、まずスキル要件についてご説明します。
スキル要件
知財担当者というと「発明発掘~特許明細書の下書きができて、商標やライセンス契約などの知的財産法全般に通じている」というイメージがあります。そう考えてしまいますと、担当者育成には多大な時間と費用が必要ということになり、消極的にならざるを得ません。確かに、特許について一通りこなせるようになるだけでも、複雑な特許法、膨大な審査基準および裁判例を学んだ上に実務経験が必要なので相当の費用と時間がかかります(大手の場合、専任で3~5年ほどかけて育成しています)。
しかし、外部の専門家の活用を前提とし、担当分野を限定すれば(例えば特許とノウハウ)、知財担当者のスキル要件は一定の範囲に抑えることが可能です。いわゆる選択と集中です。
必要なスキル要件は、各企業のこれまでの取り組み方や目的によって異なりますが、「特許」担当者としては、概ね、以下の3点を押さえていれば最低ラインはクリアでしょう。
- 自社技術に関連する特許文献のサーチができること
- 簡易な侵害判断(大まかな権利範囲の把握)ができること
- 進歩性判断ができること
- 簡易な侵害判断とは
- 簡易な侵害判断ができるレベルとは、巷のテキストでは高度な理論も含めて説明しているので、高望みしがちですが、必ずしも高度な理論を知っている必要はありません(例えば均等論など)。まずは、原則である「特許発明の構成要件の全てを備えているか否か」(a+b+cとからなるX装置の発明の場合、aとbとcの全てを備えること)が問題となることを知っていればよいのです。これを実例を通してしっかりと身につければ、まずは十分です。
- 発明の進歩性判断とは
- 審査基準「一致点相違点を明らかにした上で、容易に想到し得たことの論理付けができるか否かで判断され、その論理付けは、引用発明中の示唆、動機づけ等を主要観点とし・・・」を事細かに理解する必要はありません。一致点と相違点だけ把握できれば、初動調査としては十分です。
以上が、最低限求められるスキル要件です。いかがでしょう。意外と敷居が低いことをお感じいただけたでしょうか。つまり、明細書が読めて、関連するキーワード等で類似の特許文献を発見できさえすれば、厳密な解釈は外部の専門家に任せればよいのです。そうだとすれば、設計業務と兼任でもよいことになり、何とか担当者を立てることができそうです。
役割
むしろ、企業内の担当者には、法律を厳密に使うことよりも重要な役割があります(上図参照)。以下の3点を押さえた動きが出来れば、 知財戦略はもう動き出したも同然といえるでしょう。
- 他社製品との相違点、顧客のニーズ、事業の方向性等を総合的に考慮した上で、自社技術の特徴がどこにあるのかを見極めること
- 特許文献サーチにより「おおよそ、このような発明でも特許になっている」ということを知り、社内の技術者らが「この技術は特許にはならないだろう」と見過ごしている発明を抽出すること(発明メモのレベルで十分)
- 関連する他社特許文献を技術者に提示することで、「自分たちなら、この部分をもっと改良できる」という課題発見に供すること
次回(第3回)は「担当者のアサインと動機づけ」について、そして最終回(第4回)は「知財担当者と外部専門家による知財戦略の進め方」ついてご説明したいと思います。乞うご期待。