企業における知財戦略(第3回)知財担当者のアサインと動機づけ

前回は、知財担当者のスキルレベルの目標設定ついて説明しました。今月は、決定した目標レベルを前提として、人選(アサイン)と動機づけ、および教育方法について、ご説明します。

知財担当者のアサインと動機づけ

 知財担当者は、従業者の啓蒙を図る意味でも、(経営者自身ではなく)従業者の中から選任するのがよいでしょう。また、法務担当者がいる場合、兼任とするかどうか悩むところですが、知財は技術がベースになるものですから、やはり技術者の中から選任する方が効果的です。さらに、担当者の役割からすれば(第2回目の図を参照)、自社のマーケット、経営方針および将来の事業の方向性などを理解していることも条件になります。この点、部長級ですと軽快なフットワークに欠けるきらいがありますし、担当者レベルですと経営方針まで理解していることを要求するには酷な面もあるので、課長級の管理職が適任といえそうです。なお、独創性が必要かどうかについては、確かに発明を広げていく際には必要となる素養ですが、これは発明者に備わっていれば足りるでしょう。

知財担当者の役割(企業における知財戦略 第2回の記事より再掲)

選任のポイント

「選任のポイント」は、自分からやりたいという技術者を選任することです。経営者が「知財」という言葉を発していない場合、従業者の方から知財戦略を進めましょうなどとは言えないものですが、これだけ世の中で「知財」と騒がれているのですから、社内にも興味のある方がいらっしゃるはずです。よくある失敗例としては、経営者の独断で人選し、当の本人は設計だけに興味があったりする場合です。このような場合、言われたことはやりますが、自ら進んで発明を発掘しようとか、知財戦略を進めようという意識が希薄なため、結局、経営者自身がいろいろ勉強して指示を与えない限り、うまく進んでいかないということにもなりかねないので注意が必要です。

動機づけのポイント

「動機づけのポイント」としては、全従業員に対して「知的財産を重視する趣旨」を説明することです。知財担当者がいくら叫んだとしても経営者が「知財」について何ら言及しないとすれば、他の従業者からの協力が得られず、成果は期待できませんし、知財担当者は孤立してしまうからです。また、動機付けには、「知財に関わる者を正当に評価していく」ことも重要です。ただし、知財戦略の効果はすぐには出てこないので(第1回目の図を参照)、担当者の評価としては、まず、そのプロセスを評価してあげるようにしてください。

図1.独自技術が特許で守られるまで 知財担当者の役割(企業における知財戦略 第1回の記事より再掲)

教育の実施方法

 教育の実施に際しては、手始めとして、各種のセミナーに出席することが考えられます。たとえば特許庁主催の説明会では、初心者向けと実務者向け説明会とがありますが、まずは、初心者向け説明会に出席してもらうのがよいでしょう。なお、実務者向け説明会の方は審査基準の説明が主ですので、ある程度の上級者向けとなり、これから知財担当者になろうという方が出席しても、かえって混乱し、知財嫌いになってしまうおそれがあるので注意が必要です。少なくとも1~2年程度の実務を経験してから参加するのがよいでしょう。

もちろん、書籍を活用する手もあります。各種の入門書籍や、産業財産権標準テキスト特許編(特許庁)、および知的財産検定(2級)用の書籍、CD-ROM版の独習テキストなどが市販されているので、活用してみてはいかがでしょうか。また、インターネット上にもテキストは結構存在しています。

当ウェブサイトにも特許の概要がございますので、ぜひご参考ください。

ただし、各種のセミナーや書籍も、業務内容の性質上、最終的にはどうしても法律や審査基準をある程度理解することが必要となるため、細かいルールを説明する趣旨のものが多く、前回で述べたような企業内の動きに直結させるためのものが少ないのが実状です。

そこで、できるところから始めるとすれば、法規(ルール)から入るよりも、まずは先行特許文献の調査から入るのが良いでしょう。つまり、細かいルールはともかく、まずはプレーしてみるということです。入門セミナーやテキストで、ざっと基礎知識を身につけた後は、すぐに実例(明細書)を読んで、自社製品で使われている技術に関連する出願をサーチし、どのようなレベルの技術が特許になっているかを知るほか、クレーム(特許請求の範囲)と実施例との関係がどうなっているのか等を肌身で感じることから始めてみるのが良さそうです。

次回の最終回は、いよいよ、(知財担当者と外部専門家による)知財戦略推進の勘所について、ご説明したいと思います。乞うご期待。