第2回 意匠法の改正:建築物の意匠を中心に店舗デザインや営業スタイルの保護について
2020年4月に改正意匠法が施行され、建築物の外観や内装が意匠登録の対象になります。今回の意匠法改正は大改革とも呼べるもので、デザイン界に大きな影響を与える内容になっています。
ライバルに差をつけるチャンスでもあるので、ぜひ意匠の申請をご検討ください。
2019年意匠法改正(2020年4月1日施行)の概要
IoT(モノのインターネット)やAI(人口知能)・ビッグデータによって、産業構造が大きく変わる現代ビジネスにおいて、品質や技術力だけでなく、優れた顧客体験を生み出すようなデザインのチカラが企業の競争力に直接的な影響をおよぼすようになりました。今回の意匠法の大変革は、特許庁が提言する「デザイン経営」(デザインをブランド力及びイノベーション工場のための重要な経営資源として活用する経営)を推進する経営)推進するために、意匠法におけるデザイン保護の拡大と手続きの改善を図ろうとするものです。
意匠法改正のポイント
- 空間デザインの保護(建築物、内装)
- 画像の保護対象の拡張
- 関連意匠制度の拡充
- 存続期間の延長
- 一物品の考え方とその他の改正
本稿では「店舗デザインや営業スタイルの保護」の第2回目として、上記の「①空間デザインの保護(建築物、内装)」を中心に説明いたします。
空間デザインの保護(建築物、内装)
デザインを経営資源に!
消費者の購買行動が、提供される環境や企業イメージにも大きく影響されることから、店舗等の建築物のデザインの巧拙は、企業収益の獲得にとって不可欠な要素となっていました。また、住宅の販売においても、消費者の住居に対する美的意識の向上等に伴い、その形状、色彩等のデザインを訴求する形で販売活動を行うことが多くなってきています。
そこで、こうした店舗、家屋等の建築物のデザインについても、意匠の定義に含めること等により、保護対象とすることとしました(意匠法2条1項等)。 また、企業が店舗内装のデザインに特徴的な工夫を凝らしてブランド価値を創出し、サービスの提供や製品の販売を行う事例が増えてきたことから、内装全体のデザインの意匠登録を認める制度を新設しました(意匠法8条の2)。
出願の準備はお早めに!
こういった大改正の場合、出願が殺到してしまい、遅れて出願すると審査待ちになって登録までに多くの期間を要することがよくあります。店舗の外観や内装に力を入れている事業者の方がいらっしゃいましたら、法改正施行と同時に出願し、いち早く権利化することを検討してみてはいかがでしょう。
特に、内装の意匠については、店舗・事務所・宿泊施設・医療施設・興行場・住宅・客船・鉄道車両などの幅広い内部のデザインが保護対象となっており、喫茶店、レストランやバー、各種教室など雰囲気づくりが重要な場合など、お勧めです。
建築物の意匠の法改正内容の概要
建築物の意匠の法改正内容を以下に簡単にまとめました。
従来は、意匠の保護対象は動産に限定されていたのですが、今回の法改正では、意匠の定義に建築物が追加され、建築物も保護対象とすることが明記されました。
改正前
(定義等)
第二条 この法律で「意匠」とは、物品( 物品 の部分を含む。第八条除き、以下同じ 。)の形状、模様若しくは色彩又これらの結合であって、視覚を通じ美感起こさせるものいう。
意匠法
- 動産に限定され不動産は保護対象外(工業的に量産できることが必要)※建売住宅、組み立てバンガローは動産に分類されています。
改正後
(定義等)
第二条 この法律で「意匠」とは、 物品 (物品の部分を含む。以下同じ)の形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの結合(以下「形状等」という。)、 建築物(建築物の部分を含む。以下同じ。)の形状等又は(中略)であって、視覚を通じ美感起こさせるものいう。
意匠法(2020年4月1日施行)
- 建築物も保護対象に含みます(例: 住宅 、オフィス 、研究所工場 、ホテル、百貨店 飲食店 飲食、病院 、博物館、図書館、劇場 、駅舎、神社 、橋梁、複合建築物など )
建築物の意匠の審査基準はどうなる?
照明器具の点灯による模様や、モニタで表示されたプロジェクターで投影された建築物の模様や画像も対象になりました!
審査基準(案)の233頁/383頁によれば、によれば、改正された意匠法2条の「建築物の形状等」、つまり「建築物の形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの結合」には、「建築物に固定した照明器具を点灯させることによって建築物の内外壁等に模様が表されている場合は、建築物自体の模様と捉え意匠を構成するものとして取り扱う」とされている点はポイントになります。逆に、照明器具が建築物から離れた場所に固定されている場合、外壁等に投影された模様は対象外になるので注意が必要です。
また、さらに、「建築物及びそれに附随する範囲内の土地に固定した画像表示器等の表示部に画像が表示されている場合、及び、建築物及びそれに附随する範囲内の土地に固定したプロジェクターによって建築物の内外壁や天井等に投影された画像も同様に、建築物の意匠を構成するものとして取り扱う。」とされている点も、要チェックです。
建築物の意匠の登録要件まとめ
建築物の意匠の登録要件のポイントは以下のようになります。
意匠法上の「建築物の意匠」の要件
意匠法上の「建築物の意匠」とは、「土地」の「定着物」であり、かつ、「人口構造物」であるものを指します。
例:住宅のテーブル、オフィスの椅子、ホテルのベッド、洗濯機、冷蔵庫、ラグ、置き畳、植木鉢、ゴミ箱など
では、それぞれの定義を確認しておきましょう。
「土地」とは
- 定着物が固定される地表面であり、平面、斜面等の地形を問わない。海底、湖底等の水底も含む。
「定着物」とは
- 継続的に土地に固定して使用され、任意に動かすことができないもの
- 土地に定着するものでも、動産として取引される庭園灯や、一時的に設営される仮設テント、不動産登記の対象となるものの、動産として取引される船舶や航空機やキャンピングカー、自然地形を利用したゴルフコース、自然物を主な要素とする庭園などは対象外。
- 出願の一部に、社会通念上、一時的に配置するもので、任意に動かし、配置を変更することができるものを含んでいるときは、建築物の意匠を構成しないものとして取り扱う。
「人口構造物」とは
- 意匠登録の対象とする構造物は建築基準法の定義等における用語の意よりも広く、建設される物体を指し、土木構造物を含む。
「意匠に係る物品」の要件
「意匠に係る物品」とは、建築物の具体的な用途が明確である物品を指します。
例)住宅 、オフィス 、研究所工場 、ホテル、百貨店 飲食店 飲食、病院 、博物館、図書館、劇場 、駅舎、神社 、橋梁、複合建築物など
なお、多様な業種のテナントが入居する大規模施設の複合用途の場合、「意匠に係る物品」の欄に「複合建築物」と記載し、「意匠に係る物品の説明」の欄具体的な用途を記載します。
新規性について
意匠の新規性判断では、対比する両意匠の使用の目的、使用の状態等に基づく用途及び機能に共通性があるか否を検討します。
例)「住宅」、「病院」、「レストラン」、「オフィス」はいずれも人がその内部に入り一定時間を過ごすという点で用途及び機能が類似するとされています。
建築物の組み物の意匠
建築物の意匠については、さらに、組み物の意匠としても登録できるようになりました。
商業用建築物とホテルで構成される一組の建築物や、幼稚園、小学校、中学校、高等学校で構成される一組の建築物などが組み物の意匠として登録できます。
改正前
同時に使用さ れる二以上の 物品 であつて経済産業省令で定めるもの(以下「組物」という。)を構成する 物品 に係る意匠は、組物全体として統一があるときは、一意匠として出願をし、意匠登録を受けることができる。
第八条
改正後
同時に使用される二以上の 物品、建築 物又は画像であつて経済産業省令で定めるもの(以下「組物」という。)を構成する 物品、建築物又は画像に係る意匠 は、組物全体として統一があるときは、一意匠として出願をし、意匠登録を受けることができる。
第八条 (2020年4月1日施行)
また、画像の保護範囲が広まったことと相まって、建築物と画像を組み合わせた「組み物の意匠」も登録可能になりました。
次回は「店舗デザインや営業スタイルの保護」の第3回目ということで、「空間デザインの保護(建築物、内装)」のうち、特に内装の保護を中心に説明いたします。乞うご期待!