第3回 意匠法の改正:「内装の意匠」を中心に店舗デザインや営業スタイルの保護について

「内装の意匠」改正内容

今回は「店舗デザインや営業スタイルの保護」の第3回目ということで、「空間デザインの保護(建築物、内装)」のうち、特に内装の保護を中心に説明いたします。

概要

下記に「内装の意匠」の法改正内容を簡単にまとめました。

 建物の意匠は、意匠法2条の「意匠の定義」を拡張することで保護対象にしましたが、「内装の意匠」は、内装を構成する個々の物品自体は、法改正前から保護対象でしたので、内装全体として保護できるようにするために、8条の2を新設して、「内装全体とし一意匠として出願できる」という改正になっています。

①「内装の意匠」の保護対象化

従来(改正前)改正後(2020年4月1日施行)
原則として個々の物品の意匠を保護するに留まり、例外としての「組み物の意匠」も物品が限定され、内装全体としてのデザインは保護されない。

※個々の物品のデザインや組物について意匠登録できない場合は、内装デザインを保護することはできない。
内装全体として、まとまりがある等、統一的な美感を起こさせる場合は(注1)、内装全体として一の意匠として保護される。

※個々の物品だけでなく、内装全体についても意匠として保護することが可能

( 図:改訂意匠審査基準(案)300頁【事例】「喫茶店」より抜粋)

② 条 文

従来(改正前)改正後(2020年4月1日施行)

             

なし
(内装の意匠)新設
第八条の二
店舗、事務所その他の施設の内部の設備及び装飾(以下「内装」という。)を構成する物品、建築物又は画像に係る意匠は、内装全体として統一的な美感を起こさせるときは、一意匠として出願をし、意匠登録を受けることができる。

※「施設」には、客船、鉄道車両、航空機などの動産のほか、ホテルなどの不動産などを幅広く含む。

「内装の意匠」の新設で審査基準はどう変わるか?

照明器具の点灯やプロジェクターで投影された内装の模様や画像も対象に!

審査基準(案)の279頁/383頁によれば、「内装を構成する物品、・・・又は画像に係る意匠」には、「机、椅子、ベッド、衝立などの家具類や、陳列棚などの什器類のほか、「照明器具」や、「内装の意匠を構成する建築物に備え付けられたモニターに表示される画像や、内装に備え付けられたプロジェクターから当該建築物の壁面に投影される画像など」が含まれるとされている点がポイントです。

「照明器具」については、照明器具自体のほか、「照明器具が点灯等することにより、内装自体に模様又は色彩が表れる場合は、当該色彩や模様についても、出願に係る意匠の形態を構成する要素として取り扱う」とされている点は建築物の意匠と同様に要チェックです!

形状、模様若しくは色彩が変化する内装の意匠も一定範囲で保護可能!

用途及び機能に基づいて、形状、模様若しくは色彩が変化する内装の意匠 については、一定範囲で変化する前後の形状等を含め、一の内装の意匠として取り扱われます。

ただし、変化の範囲は、一の用途及び機能に照らして必要な変化の範囲内のものである場合には 限られる点がポイントになります。例えば、下記の図のように、不使用時に壁面に格納できる可動式のベッドを有する「貸しオフィス用休憩室 の内装」のような場合です。

他方、例えば、「オフィス用会議室の内装」において、会議形式等に応じて、机と椅子の配置を 変えることは一般的に行われており、内装の意匠の構成物品等の多くは、任意に動かすことができるものが多いといえます。

このような変化まで一意匠として出願できることになると、第三者が権利範囲を予測できず却って産業の発達を阻害するおそれがあります。

そこで、変化の範囲が一の用途及び機能に照らして必要な変化の 範囲内のものである場合を除いては、一の内装の意匠に該当しない、すなわち内装の意匠権の範囲に含まれないと判断することとしたものと考えられます。

審査基準(案)の272頁より

意匠法上の「内装の意匠」の登録要件まとめ

「内装の意匠」の必須の登録要件は4件です。

  1. 意匠法上の内装の意匠であること(細目は下記の①~③)
  2. 意匠に係る物品であること
  3. 新規性があること
  4. 創作が容易でないこと

 1.意匠法上の内装の意匠であること

細目① 店舗、事務所その他の施設内部であること
店舗、事務所、宿泊施設、医療施設、興行場、住宅、客船、鉄道車両などの内部
細目② 店・複数の意匠法上の物品、建築又は画像により構成されるものであること
内装を構成する要素である物品、建築又は画像は、あくまで意匠法上の保護対象に含まれることが必要 です。 また、照明器具が点灯等することにより、内装自体に模様又は色彩が表れる場合は、当該色彩や模様についても、出願に係る意匠の形態を構成する要素として取り扱う点は要チェックです。
適切な例不適切な例
・机、椅子、ベッド、衝立などの家具類
・陳列棚などの什器類(販売商品等が含まれていても可)
・照明器具
・備え付けのモニターやスクリーンに表示、投影される画像
・人間、犬猫など動物
・蒸気、煙など不定形なもの
・自然の地形そのもの
細目③ 内装全体として統一的な美感を起こさせるものであること
各々の構成物品等の全てに統一的な形態が表されているか否かについては不問である点がポイントです。
適切な例
・構成物等に共通の形状等の処理がされているもの
・構成物等が全体として一つのまとまった形状又は模様を表しているもの
・構成物等を統一的な秩序に基づいて配置したもの
・内装の意匠全体が一つの意匠としての統一的な創作思想に基づき創作されており、全体の形状等が視覚的に一つのまとまりある美感を起こさせるもの
改訂意匠審査基準(案) の284頁より

2.意匠に係る物品であること

内装の具体的な用途が明確であることが必要です。

カフェやオフィスの執務室の内装、自動車ショールームの内装、観光列車の内装など

3.新規性があること

対比する両意匠の使用の目的、使用の状態等に基づく用途及び機能に共通性があるか否を検討する必要があります。

住宅用寝室の内装」と「ホテル客室の内装」は 、いずれも人がその内部に入り、一定時間を過ごすという点で用途及び機能が類似する。
類似しない例
改訂意匠審査基準(案)p.295頁 「展示室の例」より

※ 改訂審査基準(案)より抜粋(一部追記)

出願意匠の星空のような内装意匠は、極めて特徴的かつ内装全体の大部分を占め内装の基調を形成するものであり、需要者の注意を強く惹くものであるから、この相違点が類否判断に及ぼす影響は大きい。

一方、家具の形状及び配置が共通するが、内装全体からすると部分的、かつ広く知られた形状であるから一方、家具の形状及び配置が共通するが、内装全体からすると部分的、かつ広く知られた形状であるから需要者の注意を強く惹くとはいえず、この共通点が類否判断に及ぼす影響は小さく、上記相違点に埋没するものである。

よって意匠全体として比較すると、両意匠は非類似と判断される。

4.創作が容易でないこと

審査官は、(1)公然知られた形状等、画像又は意匠、(2)頒布された刊行物に記載され、若しくは電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった形状等、画像又は意匠を判断の基礎として、創作が容易であるかどうかを判断します。

意匠法第3条第2項は、意匠登録出願前に、当業者が公知となった(注)形状、模様若 しくは色彩若しくはこれらの結合(形状等)又は画像に基づいて容易に意匠の創作をすることができたときは、その意匠については意匠登録を受けることができないと規定している。 よって、審査官は、出願された意匠が、出願前に公知となった構成要素や具体的態様を基礎 とし、例えばこれらの単なる寄せ集めや置き換えといった、当該分野におけるありふれた手法などに より創作されたにすぎないものである場合は、創作容易な意匠であると判断する。

改訂意匠審査基準(案)111頁 「創作非容易性の判断に係る基本的な考え方」より
寄せ集めの意匠の例
改訂意匠審査基準(案)p.299頁「寄せ集めの意匠」より

左記事例は、出願意匠の属する分野において、机や椅子、棚など、種々の構成物を寄せ集めることが、ありふれた手法であり、かつ、出願意匠において当業者の立場からみた意匠の着想や独創性が見受けられないと仮定した場の例