特許出願件数及び各種の指標から見た日本の国際競争力の現状と対策案 ~第3回~

※本連載は「はじめに」 → 第1回(「特許出願件数の推移からみた国際競争力」) → 第2回(「各種の客観的指標の推移からみた国際競争力の現状」)→ 第3回(本記事) の4部構成です。

3.個人の努力で改善可能な指標について(主観的指標)

 これまでの第1回目第2回目の連載でみてきたのは、主に、政府や企業の経営者でなければ変えていくことができない指標であるともいえます。

 ですので、企業の経営者には必要な分野に積極的に投資していただいたり、政府には内部留保を活用できるよう税制を抜本的に改革したりしていくことを期待することくらいしかできませんが、今回、第3回目でみていく指標は私たち個人の問題として、私たち個人の努力である程度は解決できる指標といえます。

3-1.ランスタッド・ワークモニターの各国の従業者の意識調査(世界全域33か国)

 各国の労働意識調査でも、かなり深刻な状況が明らかになっていますが、ここに今後改善していくための多くのヒントが隠されているようにも思います

 例えば、ランスタッド・ワークモニターの各国の従業者の意識調査では、スキルアップに対する意識や今後の目標について、日本の従業者の意識レベルが調査対象33カ国の中で最下位の指標が多い状況でした。

 まず注目したいのが、スキルアップに対する意識で、スキルアップのために自己負担で実施しようと思っていることがあるかどうかの質問において、33カ国の平均が67.7%であるのに対し、日本は42.2%と最下位だったことです。

 この点については、リクルート社の「スタディアプリ社会人大学院」誌の2019年度版の特集記事「世界一ビジネスマンが学ばない国ニッポン」でも取り上げられており、インドの90.8%などを筆頭に、マレーシア80.7%、シンガポール75.6%など東南アジアが高い数値を示すとともに、オーストラリア67.4%、ニュージーランド64.7%、米国60.1%、ドイツ55.6%などが続き、日本が42.2%とかなり低い数字で最下位となっていました。

 この背景には、スキルアップに向けた研修の受講に関し、グローバル平均では66.0%が勤務先から何らかのスキルアップ支援を受けているのに対し、日本では僅か41.2%に留まっていることがそのまま反映された状況になっているとみることができ、経営者の意識改善が必要であることを示した結果ともいえると思います。

図15 ランスタッド・ワークモニター スキルアップに関する質問回答
【労働意識調査ランスタッド・ワークモニター 2017年第3四半期】「スキルアップへの取り組み、日本は最低レベル」より
https://www.randstad.co.jp/wt360/archives/20171117.html

 このような企業における従業員に対する学習支援の状況を示す情報としては、下記のような情報「 (内閣府 「選択する未来2.0」 )企業による従業員に対する教育訓練に関する制度導入の状況 」があり、企業の支援が乏しいことが指摘されています。

図16 企業による従業員に対する教育訓練に関する制度導入の状況   
内閣府「選択する未来2.0」
https://www5.cao.go.jp/keizai2/keizai-syakai/future2/ 
 報告(令和3年6月4日)「選択する未来2.0 参考資料」より
 https://www5.cao.go.jp/keizai2/keizai-syakai/future2/saishu-sankou.pdf

3-2.高等教育機関における30歳以上入学者割合の国際比較

 また、各国の社会人の大学院への進学率についても、日本はOECDの平均の26%を大幅に下回る状況が明らかになっており、先の「世界一ビジネスマンが学ばない国ニッポン」を別の角度から裏付ける内容になっているといえます。
(なお、あくまで、大学院修士課程(博士前期課程)の入学者の中で30歳以上の割合であり、社会人全体で大学院に進学する人の割合ではありません。)

 確かに、大学院に行くだけが勉強ではないので、この指標だけで日本は社会人が学ばない国であると断定することはできないのですが、前述の 3-1.ランスタッド・ワークモニターの各国の従業者の意識調査 の他の国との違いも併せて考えれば、日本の状況はかなり厳しいと見ざるを得ないと思います。

 やはり、日本は天然資源の少ない国なので、ひとの知恵を使って物事を進めていくしかなく、そのベースになるのは「学び」や「経験」しかありません。そういう意味で、最初に分析した「知的」財産の出願件数が日本だけ減少しているのは、「知恵」の蓄積が減少していることを意味し、資源のある他の国と違い、資源の少ない日本にとって危機的な状況であるのではないかと思うのです。

 なお、当職が最初に就職した大手電機メーカーでは同じ拠点内(数百人規模)で在職中に大学院に入学した人は皆無でしたが、前職の中堅企業では同じ拠点内(50人規模)で在職中に大学院に進学した人が2名おりました(当職は法科大学院、もう一人は国内MBAで現在は会社を出て独立しています)。

 最近では、大学院の方も社会人の受け入れ態勢を整えているところが増えていますので、想いのあるかたは検討してみてはいかがでしょう。

図17 高等教育機関における30歳以上入学者割合の国際比較
文部科学省「今後の社会人受入れの規模の在り方について」
「高等教育機関における30歳以上入学者割合の国際比較」より
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/042/siryo/__icsFiles/afieldfile/2018/07/26/1407548_3.pdf

3-3.パーソル総合研究所の就業実態・成長意識調査(アジア太平洋地域(APAC)14か国)

 また、パーソル総合研究所の各国の就業実態・成長意識調査でも、ランスタッド・ワークモニターと似たような傾向の結果となっております。
 例えば、「あなたは、現在の会社で管理職になりたいと感じますか」という質問に対し、日本は最も低い数値になっていました(数値は、「そう思う」「ややそう思う」の合算値です)。

 もちろん、管理職を目指すこと自体は、成長意識と完全に合致するものではありませんが、何事でも上を目指すことは良いことであり、そういう野心を持ったビジネスマンが多数いる国は伸びていることが多いのは確かです。
 実際、下記のデータをみても、インドや東南アジアなど急伸著しい国が多く、回答内容との一定の相関が認められると考えられます。

図18 パーソル総合研究所の就業実態・成長意識調査 管理職を目指す人の割合
パーソル総合研究所「アジア太平洋地域(APAC)14の国 就業実態・成長意識調査(2019年)」より
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/research/activity/data/apac_2019.html

 同じく、パーソル総合研究所の意識調査で、「社外での学習や自己啓発に取り組んでいる状況」についてみても、諸外国のビジネスマンは、社外学習・自己啓発など自己研鑽に意欲的であるのに対し、日本は、すべての項目で消極的であることが読み取れます。

 例えば、「特に何も行っていない」の回答比率は、日本が46.3%で、約2人に1人が社外学習・自己啓発について消極的であるという状況であり、他の国の約2.0~22.1%と比較して突出して高いことが分かります。

 なお、質問内容は、「あなたが自分の成長を目的として行っている勤務先以外での学習や自己啓発活動についてお知らせください(複数回答/選択肢11項目)」という内容です。

図19 パーソル総合研究所の就業実態・成長意識調査 社外学習・自己啓発への取り組み状況 国際比較
パーソル総合研究所「アジア太平洋地域(APAC)14の国 就業実態・成長意識調査(2019年)」より
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/research/activity/data/apac_2019.html
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/research/hito/hito-report-vol6.html

4.小括

 以上みてきたように、日本の現状はかなり厳しく20~30年ほど前をピークに、国際競争力はかなり低下していることが分かりました。

 全ての指標が同じベクトル、すなわち日本の国際競争力が低下しつつあり、それが加速しつつあるという方向に向いていることを示しており、厳密な計算をしたわけではありませんが、各指標間の重相関係数は限りなく1に近くなり、相互に高い関連性があると思います。

 また、因果関係についても、例えば、内部留保の極端な増加と人に対する投資の減少、科学技術論文の減少と技術力の低下や特許出願件数の減少など、相互に原因と結果になっている面が見受けられるので、このまま何も変えない限り、この先10年後、20年後には、より一層厳しい状況に陥っていることはほぼ明らかになってきたとみることができます。

 もっとも、明るい兆しが全くないわけではなく、PCT国際特許出願件数が伸びているほか、例えば、下記のように、ランスタッド・ワークモニターの1つの指標で、「トレーニングや教育を受ける必要があると感じるかどうか」の質問に対する回答で、日本はトップクラスの回答率で、私たち個人としては、学びの意欲や上昇志向があるという結果があります。

 もっとも、図15に示すように「企業の経営者から何らかの支援がある」の指標が最低レベルですので、個人の意識だけでは、せっかくの学びの意欲や上昇志向も削がれかねないのですが、経営者の皆様には、こういった従業員の意識を汲んで、協力できる体制を強化していっていただければ幸いです。別にお金を出して社外の教育を受けさせることに留まらず、じっくりと調べて考えながら仕事を進めてもらう時間や余裕を取ってあげることから始めても十分かと思います。

 このように、教育(特に社会人が入学したくなるような大学教育)などの改善も急務ですが、企業と社員との関係今後の日本の未来のヒントが隠されているようにも思います。


図20 ランスタッド・ワークモニター トレーニングや教育を受ける必要性の認識
【労働意識調査ランスタッド・ワークモニター 2017年第3四半期】「スキルアップへの取り組み、日本は最低レベル」より

https://www.randstad.co.jp/wt360/archives/20171117.html

5.最後に

 これまで、経済指標単独での分析、意識調査単独での分析、特許出願件数単独での分析など、個々のカテゴリでの分析は、各種機関によってなされていますが、これらを相互に関連付けた分析はなされていないようですので今回チャレンジしてみた次第です。

 知財業務の合間を見つけて少しずつ分析したものですので、分析が浅く、言葉足らずな面もあったとは思いますが、経済指標を含む様々な指標や意識調査の結果と、知的財産に関する指標(特許出願件数)を俯瞰することで、国際的な視点で日本の現状を把握するとともに、今後の改善のヒントにしていただければ幸いです。

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